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■北秋田市の伝説■



●鷹巣

   

 むかし、村はずれの大ケヤキに雌雄の鷹夫婦が棲みついた。これは縁起が良いとして村人も大切にしたが、ある日雌鷹の留守中に雄鷹が荒鷹に食い殺されてしまった。愛する夫を失った雌鷹はそれから数十日も巣にこもっていたが、ある朝方に突然異様な鳴き声をあげて飛び立った。
  それを見たこの地の開拓者斎藤伊勢は、「あの巣の中にはなにかある」と霊感にうたれ、中をのぞくと、そこには真っ白な子鷹がいた。白鷹は吉祥であるばかりでなく、亡き夫を慕う悲しみが凝ってついに卵を産んだという話を伝え聞いた大館城主は、伊勢からこの鷹を譲り受け、大切に飼育して幕府に献上することとなった。

 ところがやがて成長した白鷹をいよいよ江戸へ運ぶことが決まった数日前に、鷹匠のわずかな隙を見て白鷹が姿を消してしまった。城内は大騒ぎになったが、翌日になって白鷹は数倍も大きな荒鷹を捕まえて戻ってきた。その荒鷹こそ、父の仇であった。
  この話を聞いた殿様は非常に喜び、「その白鷹の発祥の開拓村に、鷹巣村と名づけよ」と命じて黄金を下賜したが、これを記念して大ケヤキの下に建立したのが現在の鷹巣神社の前身であるという。

(『秋田の伝説』(角川書店)より(以下角川))


●男竜・女竜

  

 むかし、大阪に鴻池という商人がおり、七面様を篤く信仰していた。

 あるとき、鴻池の夢枕に美しい少女があらわれて、「わたしの正体を見せましょう。どうか水をいっぱいください」と言った。鴻池は床の間の生け花から水を汲んで差し出すと、少女はそれをさっと身にふりかけ、たちまち美しい女竜となった。そして、「羽後国阿仁の庄萱草へ行け」と告げ、身延の七面山へ飛び去った。

 鴻池は迷ったあげく、七日目に旅立った。幾日も幾日も山を越え、ようやく萱草の地へたどりつき小川のそばで休んでいると、サラサラと妙な音がする。ふと見ると、巨大な大蛇がいるではないか。鴻池は必死で逃げ、ついに大きな岩の前で気を失って倒れてしまった。

 長い時間が断って正気に返った鴻池があたりを見回してみると、目の前の岩には大蛇が身体をこすった跡が残っていた。そして、辺りの木々には何千という蛇がぶら下がっている。再び逃げ出した鴻池は、山の上の小さな沼のほとりでまたも気を失ってしまったのだった。

 やがて鴻池は、顔に落ちる冷たいしずくで再び目を覚ました。それは鉱石の露であった。そして、再び歩き出すと夢に見た光景に出会い、そこには黄金色に光る岩を発見したのだった。それが佐山鉱山の始まりだという。

 鴻池の信仰はますます篤くなり、大蛇の消えた大岩に萱草七面様を祀った。

 その後、夜になると、風がふきあれ、山をくずし岩を飛ばして火をふきながら萱草と露熊の間を飛ぶ男竜を見たといううわさが広がった。露熊七面様としてこの男竜を祀ると、山はしずまったという。

(『秋田の伝説』(日本標準)より(以下標準))


萱草七面神社。


神社の裏山。

 阿仁鉱山の開山伝説のひとつ。鉱山はもう見られないが、七面様は健在である。
  社殿の裏山に苔むした階段がつくられ、しばらく山道を歩くと奥の院として大岩に作られた「七面大天女」のお堂が現れる。これが上記の女竜であろう。全体として非常に神秘的な神社で、行って見る価値あり。

★ ★ ★

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【萱草の七面神社】北秋田市阿仁萱草。ウエブ地図には載っていないが市販の地図には載っている。大きな神社で案内板も出ている。

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【露熊の七面神社】北秋田市阿仁荒瀬。狭い林道を入っていくと、ポツンとある。


苔むした山道。


「七面大天女」のお堂。。


こちらは露熊の七面さま。


●極印稲荷

  

 昔、大阪に八郎右衛門という大富豪がいて、美しい妻と仲良く暮らしていたが、ある春の日、妻を探し広い邸内を歩いていると、庭に一匹の銀狐が眠っていた。これを「シッ」と追い立てるとたちまち妻の姿に変わり、「わたしは出羽の米代川の上流の阿仁にある極印沢に住む狐です」と言って泣きながら姿を消した。

 八郎右衛門は妻の姿を求めてはるばる阿仁の奥まで来たが疲れ果てて木の根に休んでまどろんでいると、突然に妻の姿が現れて、「よく私を訪ねてきてくださいました。長い間お世話になったお礼に、金色に光り輝く石を差し上げましょう」と言うと掻き消えた。
  八郎右衛門が妻を追ってまた奥へ入っていくと、そこには黄金に輝く岩があった。それが阿仁鉱山の発見だといわれ、銀狐は極印稲荷として祀られている。(角川)

 小沢鉱山の開山伝説。小沢鉱山は、阿仁鉱山跡の中でも現存する数少ないものらしい。上記の萱草鉱山の開山伝説もそうだが、阿仁の鉱山は大阪商人が中心となって開発されたようだ。

●七不思議石

 

 萱草駅の近くの谷に七不思議石がある。
  大昔のこと、森吉山のちょうど真上にカサイ石・ユルギ石・マサカリ石という3人の石の精が住んでいて、阿仁川のそばに住む若い石の精に恋をした。

 3人は石の精を早く手に入れた人が勝ちだと決めて、最初に重量のあるユルギ石が雲の上から下りたが、あまりにも図体が大きいために土の中に沈んでしまった。
  次に身軽なカサイ石が猛スピードで下りたが、これはまたあまりにも小さいために川に落ちて流され、滝つぼの中に入って出られなくなった。
  最後に背の高いマサカリ石が下りて石の精を手に入れて結婚し、ハリ木石・ウリ石・赤玉石の三つ子を産んだという。(角川)


●弥三郎の墓

 

 むかし、中村に弥三郎という剛力無双の炭焼きが住んでいた。

 ある晩、ドシンドシンと大きな足音を立てて山男が家に入ってくると、弥三郎から飯をもらって食べたが、それから夜な夜な山男は弥三郎のところにやってきた。毛むくじゃらで熊のような男だったが、気持ちは優しかった。
  ある晩、弥三郎と山男は力試しの相撲をとったが、弥三郎がどんと山男を投げ飛ばした。山男は家に入っていろりに座ると、「そなた、きつな(強いな)」と言って弥三郎の背中をなでたところ、その力があまりに強かったので弥三郎は気を失って倒れてしまった。家人が騒ぎ出したので、山男は地鳴りをさせながら逃げていった。

 弥三郎は翌朝に目を覚ましたが、それからというもの日ごとに力が強くなり、その名は阿仁一帯に鳴り響いたという。その弥三郎の墓というものが比立内の小高い山の上にあり、苔のむした大石がころがっている。(角川)



●安ノ滝

 

 打当の奥に安ノ滝という滝がある。
  安という地元の娘が恋人に会えないのを悲しんで身投げをしたために名づけられたという。
  満月の晩には近くの石に腰をかけて髪をけずっている姿を見かけると言われ、恋を実らせたい人は櫛を滝にそなえれば良いという。
(角川)


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