ある年のこと、相馬の殿様が、江戸より相馬に帰る途中、関田の松川のあたりで、大きな鮫が悠々と泳いでいるのを見つけました。殿様は、日ごろの矢の腕をためす機会と、矢をつがえてヒョウと放ちますと、その矢は見事に鮫に命中しました。鮫は、たちまち海の中に沈み、その姿はようとして見えなくなってしまいました。
殿様は首をかしげ、馬を進めて鮫川に来て、川を渡っていましたところ、下流の方から白波をたて、迫ってくるものが見えました。目を凝らしてみると、それは頭に矢を刺されたあの鮫ではありませんか。鮫は、すさまじい形相で殿様にせまり、これにたまげた殿様は、馬を走らせ、間一髪、これをかわすことができたのでした。
ほっとした殿様はそのまま進み、泉、平を通って鮫川より北8里ばかりの夏井川を渡ろうとしたとき、あの大鮫は、一足先に待ち構えていたのでしょうか、激しい波しぶきを上げて、再び迫ってきました。
殿様の馬は、名の知れた相馬の駿馬です。殿様は、必至になって馬に鞭打って、やっとの思いで岸にたどりつくことができたのでした。しかし、馬も疲れ果て、とうとう、川岸に倒れて息絶えてしまいました。
今も、夏井川のかたわらに馬頭観世音の塔がありますが、これは、馬の霊をまつったものであると言われています。
参考 『なこその民話』