須賀川の旧家、市原家の8代目を継いだ市原綱稠に飼われていた白毛の秋田県シロは、人間の言葉がなんでもわかって、買い物をしたり用足しをしたりする利口な犬で、町中の評判であった。
市原家では、毎年伊勢の皇太神宮の春のお祭りには、主人が欠かさず参拝するならわしにしていた。ところが、ある年主人が病気のために行けなくなってしまい、みんなで相談して、このシロを変わりにお参りさせることにした。
そこで、「この犬は、主人が病気のため、代わって伊勢の皇太神宮にお参りさせるもので、途中水や食べ物を欲しがって立ち寄ったときは、食べ物を与えて相当の代金を取り、その金高を帳面に書いてもらい、また、この犬は人間の言葉がわかるので、伊勢までの道順をよく教えてください」という帳面を入れた頭陀袋を首にかけ、人間にものを頼むようにこまごまと言い聞かせて、家族が町外れまで見送って出発させた。市原家では朝晩神棚に灯明をあげて、無事に帰れるよう祈った。
それからまるまる2ヶ月目の夕方、シロが無事帰ってきた。頭陀袋の中には、皇太神宮のお札と、宮司の奉納金の受け取りや、途中での食べ物の代金を差し引いた帳面も入っていた。
市原家ではみんな涙を流して喜んだ。また、「主人に代わってお伊勢参りをした忠犬」ということで町の大評判となって、みんなにかわいがられたが、それから3年後に病気で死んでしまったという。
十念寺に立派な犬塚があり、シロはそこに祀られている。
参考 『須賀川市史』