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 永正年間、勢至堂に村はなかった。

 あるとき、犬を連れた狩人が、山から山へと渡り歩き、この地にたどりついた。一休みしたら、朝からの疲れがどっと出て、ついうとうとしてしまった。犬が非常に騒ぐので、起きて呼べば尻尾を振って喜ぶ。うとうとするとまた犬が吠え騒ぐ。狩人は、なかなか寝付くことができなかった。

 しかし、眠気は募るばかり。犬が騒ぐのをうるさく感じた狩人は、鉄砲の尻で犬をはたいてしまった。犬は、悲しい鳴き声をあげて死んでしまった。

 ふと我に帰ると、大蛇が今にも自分を飲み込もうとしているではないか。狩人はあわてて鉄砲をとって、大蛇と戦いついに撃ち殺した。

 狩人は後悔した。犬は自分を大蛇から守るために吠え続けたのだと思うととても不憫で、自分の浅はかさを悔やんで犬の供養のために石塔を立てたのだという。

 大蛇は、向かいの龍ヶ峰の沼ヶ平にすむ龍だったともいわれる。犬のために立てた供養塔があるので、石仏という字名がつけられた。

参考 『長沼町史』

   
   会津へ入る五街道のひとつ、白河街道の勢至堂峠。現在は勢至堂の集落をパスして国道が通っているが、国道を少し外れて集落に入ってみると、今でも宿場町の雰囲気が漂っている。
 その集落に入る少し手前、高い丘の上に、犬石は立っていた。向かいには龍ヶ峰がそびえ、まるでそちらからやって来る大蛇を牽制しているかのようである。一見、道祖神にも見えるが、「集落のはずれ」という位置関係を考えると、案外そんな役割もあるのかもしれない。心を打つ忠犬の物語を思い、石に手を合わせた。
 ちなみに、石仏という地名は使っている(※)そうだが、家は無い。昔から住んでいる人はいなかったらしい。 (※俗地名で、地図上には無い。)
 

草陰の犬石。道祖神にも見える。



向かいには、龍ヶ峰がそびえる


   
  mapion
須賀川市勢至堂。峠に向かうと、勢至堂の集落の手前に浄水場がある。そこから国道の東の崖を登っていくとすぐに、草木に埋もれた犬石が立っている。昔は国道からも見えたそうだ。

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