西山の戸倉に鼻取り地蔵さまがあり、安産地蔵として、お参りの人が絶えない。
およそ300年前、戸倉村に源衛門という百姓がいた。ある年の春の夕暮れ、源衛門は馬を使って一生懸命田んぼの代掻きをしていたが、山里の夕暮れは早い。たいして仕事もはかどらぬうちにやがてあたりは暗くなりはじめ、馬も疲れ果て、押しても引いてもビクともしないという有様だった。
源衛門が途方にくれていると、どこからともなく1人の小僧がやってきた。そして、声もなく馬の鼻を取ると、不思議と馬は動き出し、日の落ちる前に代掻きはすべて終わったのだった。
源衛門は喜んで、子供に腹いっぱい飯をご馳走してやろうと思ったが、小僧は小川へ降りていく。足を洗いに行くのだろうと思って源衛門も降りていったが、そこに小僧の姿はなく、それからいくら探してもとうとうその小僧を見つけることはできなかった。
不思議なこともあるものだと地蔵堂へ行ってみると、なんと地蔵様の足が泥で汚れている。「もしや、地蔵さまがおれの仕事を見て手伝ってくれたのではないか。なんとありがたいことだ」と源衛門は驚き、それからというもの、村人はこの地蔵さまを鼻取り地蔵さまと呼んで、厚く信仰したのだという。
参考 『鮫川村史』