赤坂中野字取上地内に高さ5メートル、幅4メートル余りの自然石が立っている。土地の人はこれを取上げ石と呼び、毎年この石を祭る行事が行われている。
(1)大石様の罰
今から幾百年も昔のこと、この石は今の場所から数キロ離れた丸山にあった。ある時、赤坂の殿様がこの石に目をとめ、「なんとおもしろい形の石ではないか。早速赤坂の庭に運ぶがよかろう」と家来にいいつけた。
なにしろ大きな石で、傷つけるわけにもいかない。丸山に生い茂る木を敷いて、50人ほどの人夫が汗水流して運び始めた。しかし、あと少しで城に着こうという取上の地で、石はまるで大地に根を下ろしたように動かなくなってしまった。人夫はあわててテコをかけてみたりしたが、微動だにもしない。仕方なく殿様に申し上げたところ、「この大石は真坂の主になりたいにちがいない。そのまま動かさずにいた方が良い」と言って、お許しになった。
往来の真ん中にどっかと置かれた天下御免の大石は、その後大変な評判となった。真坂の人々は、自分たちの土地の主になってくれたこの石に大いに満足していた。
しかし、ここに不心得者の夫婦がいた。ある晩のこと、酒に酔って千鳥足で歩いてくると、この大石にぶつかってしまった。すると「なんだ邪魔な石だ。俺様のお通りを知らないのか」とののしった挙句、ジャージャーと小便をかけて意気揚々と引き上げて行った。
ところが、夫婦が家に帰って寝ようとすると、急に変なところが痛み出した。大石様に小便をかけた時間になると特に痛みはひどくなり、しまいには子供のできない病気になってしまったのだった。
数ヵ月後、ようやくその夫婦も自分の非を悔い、涙を流して大石様に許しを乞うた。すると「清めてくれ、酒で洗ってくれ」という大石様の声が聞こえた。そこで夫婦がすっかり洗い清めたところ、まもなく夫婦の病気は治り、それからというものはこの夫婦も真面目に心を入れ替えて、毎日酒で大石を清めたのだという。
子供の出来ない夫婦はそろってこの石を酒で清めると子供が出来ると言われ、狂歌に
取りあげの婆が力にあまる石 手をかけて見よ真坂動かぬ
と歌われてもいる。
(2)天狗と天邪鬼
昔、大塩の蝶姿山(通称大塩の観音様)のところへお寺を建てようとした天狗が、山頂に登って眺めたところ、お寺を建てるには7沢7峯がなければならないのに、どうしてもひと峯足りない。
そこで天狗は石を運んでひと峯を作ろうと、石を運び始めた。それは人々に見られぬように、夜中のうちに運ばなければならない。
大きな石を運んで真坂まで来たとき、天狗はちょっとひと休みしようと石を下ろして休んでいた。これを天邪鬼が見ていて、「ようし、ひとつ邪魔をしてやろう」といきなりコケコッコウと鶏の鳴きまねをした。天狗は「これは大変だ、夜が明ける。石を運んでいるのを人々に見られたら一大事」と、大石を置いたまま何処かへ行ってしまった。
そのときの石が、今取上石と呼ばれているものであるという。
参考 『鮫川村史』