聖武天皇の時代、杉妻町に大杉があり、その精が毎夜若侍に化け、村の娘おろすのもとへ通っていた。はじめは普通に接していたおろすだったが、やがてその侍に不審をいだく。そこで、ある夜若侍の袴の裾に糸をつけた針を刺しておいた。
そして明くる朝、その糸をたどってみると、針は大杉に刺さっている。かくして侍の正体はこの大杉であると知れ、村の談合の結果切り倒すことに決まった。
しかし、いざ切るとなっても、なかなか一日では切ることができない。そして不思議なことに、次の朝になって見てみると、前日に切ったはずの切り口がきれいにふさがっている。
こんなことが繰り返されるので、村人は杉と仲の悪いヨモギの精に相談してみた。すると、「木っ端を焼いてしまえばよい」ということであった。
早速村人が教えられたとおりにすると、切り口がふさがることがなくなり、ようやく大杉を倒すことができた。
ところが次は、切り倒した杉がどうやってもびくともしない。そこで陰陽師に占わせたところ、「木の精が娘との別れを惜しむ故であるから、かの娘に命じよ」という。娘が大杉にささやくと、果たして大杉は動き出した。娘は、「ささやいて曳きてかけたる橋なればあらさで渡れ信夫うき人」と詠んだという。
また、この木でもって福島城内に橋を架けた。すると、深夜になると人影もないのに橋の上で誰かのささやく声がする。これは大杉の精がおろすを慕ってささやくのだと噂された。城主が供養してやると、その後は止んだのだという。
参考 『福島の伝説』(角川書店)