■半田沼の赤べこ
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むかし、伊達郡の塚野目に、塚野目殿という武士があり、絵を見るようなおとなしいおしのという娘があった。 おしのはある時、ふとした病から床についたが、うわごとのように「半田沼の水を飲みたい、半田沼の水を飲みたい」と言い出した。半田沼は半田山の山腹に物凄く紺碧の水をたたえている古沼で、昼なお薄暗い森林に取り囲まれ、沼の中には主が棲んでいると言われている魔所であった。 乳母や侍女は諌めすかし、主人も馬鹿なと一笑に付したが、ただ母だけは「それ程娘が望むならば」と、人を遣わして魔の沼から水を汲ませ、娘に与えた。娘はその一杯の水を旨そうに飲み干すと、やがて病は忘れたように癒えた。その後も病気になれば、半田沼の水を飲ませれば必ず治ったのだった。 ところがある晩、娘の姿が忽然と消えた。 翌朝これを聞いた主人はたいそう驚き、八方に探索をだしたが一向に見つからない。そのうちある者が半田沼へ行ってみると、娘の着物が岩の松の枝にかかり、その根元には草履が脱ぎ捨ててあったので、あわてて駆け戻り、主人に報告した。ああ娘は沼の主に魅入られていたのかと主人は嘆息し、母は泣き崩れたのだった。 ほどなく主人は水練の者を雇い、沼の底を探らせた。やがて水練が帰ってきての話はこうであった。 沼の底へ入っていくと機織る音が聞こえてきたので、それをしるべに尋ねていくと立派な御殿があり、案内を乞うても誰も出てこない。それでその音を便りに奥の間へ踏み込むと、娘が機を織っていた。水練が父母に頼まれ迎えに来た旨を話すと、娘は目に涙を浮かべ、「私は帰る訳にはいきませぬ。沼の主に見初められ、その妻となりました。夫は今眠っていますが、目が覚めればあなたがたの命はありません。早くお帰りください。」といって、襖を細めに開けて見せた。そこには赤牛が八畳間いっぱいになって寝ていたので驚いて逃げ帰ろうとすると、「これを父母に渡してください」といって、着物の片袖をちぎって渡したのだという。 その着物は、娘が家出した時に来ていた下着だったという。 それからというもの、この地方で旱魃が続くと、塚野目の人は幟旗をたずさえて半田沼に出かけていって、おしのさんの名を呼ぶと必ず雨が降ると言われている。 参考 『桑折町史』『国見町史』 |
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| 伊達郡・信夫郡(今の福島市)の伝説集の先駆け『信達民譚集』をはじめ、県内の伝説本には必ずといっていいほど出てくる、福島を代表する伝説のひとつである。 それもそのはず、現在は周辺を公園として整備されている半田沼は、訪れた者の目を奪わずにはいられない不気味なまでに美しい沼なのだ。まるで南国の海のように深い青色をしていて、主のひとつやふたつ、いてもおかしくはない雰囲気である。 昔の人々もこの山奥の美しい沼に神秘を感じ、雨乞いの地としてきたのであろう。 ちなみに、娘の名は『国見町史』では「おしの」だが、『桑折町史』では「早百合姫」になっている。 |
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![]() 半田沼その1。 |
![]() 半田沼その2。 |
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湖畔にある祠。 |
![]() 国見には、「塚野目城跡」がのこっている。 |
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