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美しい幽霊  
 

■その1

 むかし、桑折の町外れに繁盛している豆腐屋があり、17になったばかりの器量良しの娘がいた。

 正月のこと、娘は友達の家などを回ってご馳走や酒をいただいていい気分になって帰り、コタツに入って眠ってしまった。ところがしばらく過ぎると娘の裾に火がついて、気がついたときには下半身が火に包まれてしまった。とっさに庭の池に飛び込んでかろうじて命は取り留めたが、それからは枕も上げられない重病人になってしまった。

 友人が見舞ったりすると、「いいわねぇ、あなたはそんな美しい髪を持っていて。私なんかもう間もなく死ぬのよ」と言っては涙ぐむので、慰める言葉も無く帰るのであった。

 人の口は早いもので、「豆腐屋の娘はもう駄目らしい」と噂が立ち、桑折寺のおかみさんの耳にも入っていたので、ぼんやりとそんなことを思いながら住職の留守の仕事を片付けていた。

 するとその時、誰かが山門を入ってくる音がした。本堂でしばらく拝み、ややあって庫裏に向かって戸を開けて入ってきた。おかみさんが振り向くと、それは豆腐屋の娘であった。きちんと新しい着物を着て髪も結い上げてある。噂はうそだったのかと思いながら二言三言話し、茶を入れに立って戻ってみると、娘の姿はもうなかった。

 するとそこへ豆腐屋の親戚の人が入ってきて、たった今、娘が息を引き取ったという知らせであった。 翌日葬式が行われ、亡骸は寺の裏の墓地に埋葬された。

 その夜に長い黒髪を羨まれていた娘が葬式のことなどを話していると、急に髪の結いもとがプツンと切れたり、寺では本堂の方で絹を引き裂くような女の声がしたり、本堂の中を走り回る音がしたりするのであった。寺では豆腐屋の娘が出てきたのだということで、ねんごろに読経をしてやったら、間もなく退散した。そんなことが七日間続き、その後は一切幽霊は出なくなったという。

 桑折寺の仏壇の欄干の1ヶ所が壊れているのは、娘の亡霊がそのときに踏み折ったものだと言われている。

■その2

 文久のころの話で、豆腐屋の名は三瓶、娘の名はゆかり。

 17歳の正月、豆腐屋は朝から注文が多く、ゆかりはかいがいしく働いていた。突然油揚げのなべに火がまわってしまい、消そうとしたところ髪の毛に火がつき、体中焼け爛れてしまった。

 ゆかりは見舞いの友人を見ては、「あなたのような顔がほしい。あのしなやかだった髪も欲しい」とつぶやくばかりであった。

 桑折寺に幽霊が出るようになったのは、そのころだった。 ある真夜中、住職は本堂の方から歌声が聞こえてくるのに気がついた。そっと歩み寄ると、月の光をあびながら若く美しい娘が歌いながら舞を舞っていた。 「黒髪がほしい。美しい顔に戻りたい。」これはただごとではないと思った住職が熱心にお経をとなえると、娘の姿はいつの間にか消えていた。

 同じようなことが続いた7日目の夜、娘の霊はいつになくはげしく踊り、 そのはずみで振袖が本堂の欄干にからみつき、舞い続けることができなくなった。すると、「もう、諦めなければ・・・」と言いながら欄干を折ってふりほどくと、すっと消えてしまった。

 間もなく「つい先ほど、ゆかりが亡くなりました。」との知らせがやってきた。

参考 『桑折町史』『福島の伝説』(日本標準)

   
 

 桑折町の中心部のはずれ、桑折寺に伝わる有名な伝説。出典によって話の細部が随分と違っているので、両方紹介してみた。

 生死を彷徨う状態の娘が美しい顔や髪を羨み、幽霊となって寺に現れる。 源氏物語などにも登場する、「生霊」というヤツである。 成仏した娘は、あの世で美しい姿を取り戻すことができただろうか。

 さて、桑折寺へ実際に行ってみると、 本堂の向かって右側、たしかに他の欄干とは色が違う部分がある。これが幽霊が折ったという欄干で、修復をしたために色が違うらしい。確かにそこだけ真新しい色をしていた。
 ここのお寺の若住職さんが、とても話好きで親切な方で、 伝説のことはもちろん、お寺の成り立ちから仏教のことまで、いろいろと教えていただいた。なんと、幽霊となって現れた娘の位牌まで見せていただいた。真に感謝、感謝である。

 

桑折寺山門。


桑折寺。

 

これが折れていた欄干である。

   
  mapion
新町。繁華街のはずれに桑折寺がある。
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