トップページ福島の伝説奥会津>各伝説    <凡例
 
天狗の飛礫   
 

 昔々、ざーっと昔、伊南川を挟んで天狗が住んでいた。

 大新田の松原に住む天狗は女天狗、大橋の滝沢に住む天狗は男天狗で、仲の良い夫婦であった。

 ところがある時、ふとした自慢話から両者一歩も譲らぬ大喧嘩となり、3日3晩、伊南川を挟んでの石の投げあいとなった。男の天狗は堅い丸い石、女の天狗は柔らかな丸い石をさかんに投げあったが、女の投げる石は軽く、滝沢の岩谷の山すそまでしか届かないのに比べ、男天狗の石は松原の岩谷まで届くので、女天狗がとうとう負けてしまい、いずこかへと姿を隠してしまった。そして1人になった男天狗もいつしかいなくなってしまったのだという。

 大橋村と大新田村の人たちは、あまりの激しさに災いがあっては大変であるとそれぞれの場所へ天狗を祀り、旧3月25日を天狗祭りとして農作業を休んだのだった。

 女天狗の投げた軽石が滝沢で拾われ、男天狗の投げた堅くてイボイボのある石が松原のあたりで拾われたものだったが、今は見られなくなり、天狗の飛礫として語り継がれている。

 天狗祭りに天狗飛礫を拾って女天狗の神前に3年続けて供えると、御利益があると伝えられている。

参考 『南郷村史』

   
 

 奥会津の中心地田島町から、車通りもまばらな国道289号線をひたすら奥へと進む。バイパスとなった道は思ったよりも広く、新緑の中をスイスイと快適なドライブだ。

 やがて南郷村へ入り、伊南川沿いに南へ下るとすぐ大新田。女天狗の岩屋があったという山が、すぐ左手にそそり立つ。道路沿いに小さな鳥居が立っており、その先に小さな祠を見つけた。女天狗を祀るお堂であろう。お堂の背後の山には岩がむきだしになったところがあり、そこへ登ってみると、天狗のレリーフや小祠が立っていた。「飛礫石はもう見られなくなった」と記述にあるが、足元にはしっかりと丸い石が積み上げられており、伝説健在を思わせてくれた。
麓の方を見てみれば、眼前を伊南川が優雅に横切り、その向こうには「旦那天狗」の陣地、大橋地区の田畑が広がっている。いや、広がっていると言っても、田畑の先はすぐに山。男天狗が住んでいたという場所である。川のあちら側もこちら側も、山と川の間のわずかな土地に家や田畑が詰め込まれている、といった感じだ。

夫婦はこうやって、山の上から互いの山を見つめ、時々川の上にでも船を浮かべて逢瀬を楽しんでいたのだろうか。最後には仲たがいに終わってしまったようだが、夫婦喧嘩はイヌも食わない。もしかしたら、いずこかへ去った後、どこかで仲良く暮らしているのかもしれない。

 あるいはこの話は、大新田村と大橋村の人々の、微妙な人間関係を示した伝説なのだろうか。両村がかつて激しく争った記憶が、この伝説の中に閉じ込められているだとか・・・?

 


天狗のお堂。向こうに小さく見える。


天狗岩の下には天狗のレリーフがある。
とは言うものの、実はサルタヒコなのだが。


大新田から川の向こうを見る。



下から天狗岩を見上げた様子。


天狗岩の下には、多くの石が積まれていた。
 


男天狗が住んでいたという大橋の山。


   
  mapion
南会津町大新田。村役場から国道を南下すると、間もなく東側に鳥居が見え、天狗のお堂がある。そしてその背後に天狗岩が聳え立つ。なお、大橋の男天狗の住処は山奥にあり、そう簡単には見られないとのこと。

 トップページ福島の伝説奥会津>各伝説    凡例