昔々、ざーっと昔、伊南川を挟んで天狗が住んでいた。
大新田の松原に住む天狗は女天狗、大橋の滝沢に住む天狗は男天狗で、仲の良い夫婦であった。
ところがある時、ふとした自慢話から両者一歩も譲らぬ大喧嘩となり、3日3晩、伊南川を挟んでの石の投げあいとなった。男の天狗は堅い丸い石、女の天狗は柔らかな丸い石をさかんに投げあったが、女の投げる石は軽く、滝沢の岩谷の山すそまでしか届かないのに比べ、男天狗の石は松原の岩谷まで届くので、女天狗がとうとう負けてしまい、いずこかへと姿を隠してしまった。そして1人になった男天狗もいつしかいなくなってしまったのだという。
大橋村と大新田村の人たちは、あまりの激しさに災いがあっては大変であるとそれぞれの場所へ天狗を祀り、旧3月25日を天狗祭りとして農作業を休んだのだった。
女天狗の投げた軽石が滝沢で拾われ、男天狗の投げた堅くてイボイボのある石が松原のあたりで拾われたものだったが、今は見られなくなり、天狗の飛礫として語り継がれている。
天狗祭りに天狗飛礫を拾って女天狗の神前に3年続けて供えると、御利益があると伝えられている。
参考 『南郷村史』