文政年間のある6月、寺の境内に忽然と大小無数の大蛇が集まり、村人はその異観に恐れおののいた。大きいものは1丈もあり、いくら追い払ってもいなくなる気配がない。寺の僧は、戯れに「蛇はタバコのヤニが好きなのだ」と小僧達に話してやると、江戸から修行に来ていた小僧がこの戯言を信じ、大蛇にタバコを食べさせてしまった。
大蛇はたちまち転々と苦しみ、どこかへと消えてしまった。
しばらくして、その小僧が突然発狂した。「ヘビヘビ」と叫んで地面を這いまわるありさまである。和尚がこの小僧に問いかけると、小僧は「わたしはタバコを食べてしまい、今にも死にそうなのです」と訴え、転げまわる。
和尚は、これは蛇の怨念がとり付いているのだと思い、一心に阿弥陀仏を念ずると、小僧は「わたしはこの山に棲むこと80余年、子は10匹あるが、長子は寺下の儀三郎に殺された。この恨みをはらそうとしているうちにタバコの毒にやられ、苦しんでいる。あと6日の後に必ず死んでしまうだろう」と述べ、ますます苦しんだ。
そこで和尚は「おまえはヘビである。人々を悩ませてはいけない。おまえが死んだなら、きっとわたしが成仏させてやろう」と言って南無阿弥陀仏を唱え続けると、小僧はさらにもだえ苦しんだ後、とうとう意識を失った。そして、忽然と夢から覚めたように起き上がると、元にもどっていた。小僧は何も覚えておらず、ただ疲れきっていた。
人々はこれを大蛇が往生した証だとして、塚を築いたのだという。また、後から聞くに、寺下の儀三郎は、前年に蛇を殺したことがあったのだという。
参考『相馬市史』