その昔、太田の鶴谷のあたりは大沢村と呼ばれ、一面の沼地で、不毛の荒野であった。その中ほどに小鶴ヶ池と呼ばれる池があり、行徳という心がけの良い老人が住んでいた。
ある日、一つがいの鶴が舞い降りてきて、池のほとりの松の木に巣をつくり、卵を二つ産んだ。行徳はかねがね見たいと思っていた霊鳥を見ることができて大喜びし、卵がかえる日を心待ちにしていた。
ところがある日、近くに住む直門といういたずら者がこの卵を家に持ち帰り、煮てしまったのだった。
行徳が帰宅すると、鶴の異様な鳴き声が聞こえる。不思議に思って巣を見てみると、なんと、卵がない。行徳はすぐに直門の仕業であると悟り、直門に問いただしたが、直門はいっこうに反省する気配がない。行徳は仕方なくあきらめた。
するとその夜、二つの星が空から降りてきて、何度も何度も直門の家のまわりをまわるのだった。直門は恐ろしくなって、行徳のところへ行き、ありのままを話した。行徳は困ったことになったと思いながら卵を受け取り、巣に返してやった。すると不思議なことに、数日後、煮たはずの卵から、2羽のヒナがかえっていたのだった。
夢かと思った行徳が巣をのぞいてみると、香りの良い香木が置いてあった。それは世にも珍しい反魂木という木だった。行徳はそれを持ち帰り、大事に大事に保存することにした。
このことがいつしか村人に伝わり、それこそ霊鳥であるということで、社を建て、小鶴明神として信仰した。
それからの鶴谷は土地も肥え、良い米がたくさんとれるようになって、村人は裕福な暮らしができるようになったのだという。
参考『原町市史』