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ガスムキの砂降婆ぁ
 

 石神村蛯沢から北に田のあぜ道を進み、小川にかかる土橋を渡ると、うっそうと繁る森が行く手をさえぎる。急な峠道は前かがみでなければ登れぬほどで、春から夏にかけては海の方からもやが吹き上げ峠をすっぽりつつみこむのであった。峠に入ると間もなくしてお地蔵様が立っており、村人たちはこの峠を「ガスムキのドイコ」(洞窟のような)と呼んでいた。

 この難所には昔、道行く人に砂を降りかけるという老婆が出没して旅人たちに恐れらていた。ボロボロの着物にザンバラ髪を振り乱した異様な老婆は旅人の跡をつけ、先回りしてスルスルと大樹によじ登るや、イッヒッヒーと不気味に笑いながらサラサラと砂を降りかけた。人々はこの老婆を「ガスムキの砂ふり婆ぁ」と呼んだという。

参考 『伝承いしかみのむかしばなし』(荒平・H16)

   
 

 読んでのとおり、いわゆる「砂かけ婆」の世間話。荒氏の自費出版によると思われる『伝承いしかみのむかしばなし』(定価1000円。17年1月現在、相馬市内の書店でまだ入手できます)はいささか物語風に味付けされているきらいがあるので、細かいディテールの真偽のほどはわからないが、どちらかと言うと西日本のイメージがある「砂かけ婆」にこんなところで会えるとは思ってもみなかった。
ただ、村上健司氏『妖怪事典』(朝日新聞社)を紐解いてみると、いわき市に「砂かけ地蔵」という怪異があるらしい。地蔵の前を通ると砂がふってくるというもので、このガスムキの地蔵とシチュエーションが似ている。関連があるのかもしれない。

 さてさて、テキスト中では真っ暗で旅人に恐れられていたという「ガスムキのドイコ」だが、現在行ってみると、なんのことはないただの坂道である。しかも緩め(笑)。
時の流れというのは残酷なもので、かつての難所も生活道路へと様変わりし、旅人を恐れさせた異様な老婆はいつのまにか人の記憶から消え去ろうとしている。ただ登り口のお地蔵様だけが、当時の様子を静かに物語っていたのだった。

 

ガスムキの登り口にある地蔵と板碑。


現在のガスムキのドイコ。

   
  mapion
相馬市石上。この道が北に向かって坂になっており、ちょうどマーカーのあるところに地蔵がある。

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