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■玄狐稲荷■

 松前家十三代道広の世、京の花山院常雅の娘、初姫がはるばる蝦夷地まで道広の嫁にやってくることになった。
 初姫はもちろん、母上もたいそうこのことを心配されて、日頃信仰している九条稲荷に熱心にお祈りした。すると、稲荷神はこの願いを聞き入れ、銀狐2匹を使いとしてよこし、初姫を蝦夷地まで安全に守るよう命じられたのだった。

 初姫は銀狐2匹に守られ、無事松前家の嫁として迎えられることとなった。銀狐はその後も姫を守り続け、姫は平穏な日々を暮らすことができていた。

 ある日、銀狐のうちの1匹が、「わたしはもう京へ帰り、ことの次第を九条稲荷に報告してきます。あとは十字銀狐にまかせます。」と姫に言い残すと、松前を去っていった。
 残った1匹は「十字銀狐」といって、首のところにくっきりと十字が白い毛で浮き出ている雄狐なのだった。

 1匹になった十字銀狐は、蝦夷の広い野を駆け巡るのを楽しみとしていた。ある時、つやのある赤い毛を持った雌の狐に出会った。2匹は出会った瞬間に恋に落ち、それからというものは、毎日のように2匹仲良く野山を駆け巡っていたのだった。

 そうこうしているうちに、猟師達の間で、十字銀狐の噂がひろまっていた。猟師達は、なんとかこの珍しい狐を捕らえて殿様に献上できないかと、十字銀狐を探し回っていた。
 ある日、知内の野山を歩いていた厚谷伴蔵が、バッタリと2匹の狐に出会った。これは絶好の機会であると、伴蔵は鉄砲をかまえ、銀狐を狙って引き金を引いた。
 妖術の巧みな十字銀狐ではあるが、赤狐との戯れに夢中で、このときは油断をしていた。鉄砲の弾は、見事十字銀狐を撃ち抜いていたのだった。

 十字銀狐はさっそく殿様に献上され、皮は殿様のものとなり、肉は家臣の中津源兵衛にあたえられた。
 ところが、肉を食べた源兵衛はつんぼになって死に、猟師の伴蔵一家も病気続きで不幸の連続、殿様の生まれたばかりの子供、さらには初姫までもが死んでしまうという事態になってしまった。

 殿様は驚いて修験者を呼び占わせたところ、すべての事情が判明した。そこで殿様はさっそく城内に祠をたて、十字銀狐を丁寧に祀ったのだった。
 そして、その祠はいつしか「玄孤稲荷」と呼ばれ、人々に親しまれるようになったのだという。

参考 『ほっかいどうむかしあったとさ〜道南編』


◆またたびの独り言◆

 道南の松前に伝わる和人伝説。北海道でこのような純粋な和人伝説が見られるのは、やはり道南地方に限られてくる。
 姫を守るために、京からはるばるやってきた2匹の銀狐。もしかしたらこの話は、姫の親衛隊のような者を「銀狐」にたとえたものなのかもしれない。歴史事実がどうなのかは未調査なのだが…。

 雨の降る中、この玄孤稲荷を探し回ったのだが、現在は熊野神社に合祀されているということが判明した。ただし、熊野神社へ行ってみたが、特別に小祠が建てられているということはないようである。神主さんが詳しいことを知っているということを聞いたのだが、雨の中先を急がなければならなかったので、それ以上詳しく調べることはできなかった。


熊野神社の社殿。

★関連伝説地★

特になし

★アクセス★

ゴチャゴチャした地図になってしまったが、要は松前の街中を通る道沿いに熊野神社がある。ただし、特に稲荷を祀ったようなところは見当たらなかった。


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