昔、浜人(浜のほうから乾物や磯物を行商にくる女の人)が2人で商いにやって来て、沼のほとりで休憩すると、たくさんの魚が寄り集まっていた。
2人はこれは珍しいものだと、その魚を捕らえて、焚き火で焼いて食べてみると、これが非常にうまい。1匹、また1匹と食は進み、とうとう2人でたいらげてしまった。そして、出発しようとした時、片方の女が急に喉の渇きを訴えた。
女は沼へ引き返し、水を飲むとその水もまたおいしい。口をいっぱいにあけてガブガブと飲んだ。飲んでいるうちはいいが、出発しようとするとまたすぐに喉が乾く。何度もそれを繰り返しているうちに、腹がどんどん膨らんできた。
やがて我慢できなくなった女は、とうとう沼の中へ入ってまでも水を飲み続けた。そして、もう1人の女に、「このままでは私はもう家へ帰れない。このまま沼の主になってしまうかもしれないから、あの品物は売ってくれ。そして、このことを家に伝えてくれよ」と言うと、ズブズブと沼の底へ沈んでいってしまった。
友人はビックリ仰天して大急ぎで浜に帰り、一部始終をその女の主人に話した。主人もまた驚いて、せめてひと目会いたいと、妻が常にかわいがっていた葦毛の馬に妻の遺品をつみ、子供を背負って沼へ向かった。
主人はやがて沼へ着き、妻の名前を呼んだ。2回、3回・・・すると、不思議なことに、沼の中から浮かび上がってきたのは、まぎれもない妻の姿であるが、なんと腹の下のほうが蛇体になり、顔つきも恐ろしい形に変わりだしていたのだった。
妻は言った。「よく尋ねて来てくれました。私はもう二度と、体面もできない体となってしまいました。これからはこの沼の主になるから、どうぞあきらめてください。子供の行く末はきっと守るから、あそこの森に捨て子にしてください。それからその馬は私がかわいがった馬だから、どうぞ私にください。」
言うやいなや、妻は沼の底へ隠れてしまって、葦毛の馬もズブズブと沈んでいってしまった。やがてどこからか声があり、「私の霊魂はこの島に、弁天として祀ってくれ」と言ったので、それからその島を弁天島と呼ぶようになったという。
参考 『豊里町史』