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べんべこ太郎

 天童市に妙見神社がある。むかしから、三年に一度、若い娘をこの妙見様に奉納することになっており、その年は丁度奉納の年になっていた。
 ある日旅の坊さんがこの地へやって来て、庄屋の家に宿をとった。すると、なにやら家の中が沈んでいる。わけを聞いてみると、その庄屋の娘が御供に当たっていたのだった。坊さんは、「神様が若い娘を御供にとるなどとはおかしい」と思い、その夜、こっそり神社へ行ってみることにした。
 拝殿に坐ってじっとしていると、真夜中の丑の刻、奥のほうでミシリと音がしたかと思うと、生暖かい風が吹いてきた。ふと天井を見上げると、無数の怪物の目がギョロギョロと坊さんを見ている。坊さんは恐ろしくなったが、じっとその場で経を唱えつづけたのだった。
 すると、動かない坊さんに安心したのか、怪物はいっせいに、腹ヅツミを叩き始めた。月明かりで、それがどもであることが坊さんにもわかった。やがて、の頭らしいのが、ひときわ大きな声で歌い始めた。
 「ぽんぽこぽん 信濃の国のべんべこ太郎に あのこと このこと 聞かせんな」

 坊さんはこの歌を怪しいとにらみ、次の朝さっそく信濃の国へ旅立ち、べんべこ太郎が犬の名前であることがわかった。坊さんはすぐにその犬を借りて村に戻ると、娘のかわりにべんべこ太郎を妙見さまの境内に放してやった。
 は猛然と吠えながら拝殿へ入り込み、激しい戦いの音が響き、やがて小半時もして音がしなくなった。
 ようやく空が白んできて、村人と坊さんが妙見さまに行ってみると、境内から裏山のあちこちにの死骸がごろごろ転がり、傷だらけのべんべこ太郎が眠るように倒れていて、すでに息絶えていたのだという。そして村人は、べんべこ太郎に感謝し、神社の境内に墓を建てて葬ってやったのだという。


参考 『山形県最上地方の伝説』(東北出版企画)


 なぜか山形県内にやたらと多い猿神退治の話。しかも相手が猿ではなくて狸。人間のために悪者を退治して息絶える犬だなんて、現在でも映画にしても十分通用しそうな物語である。狸ってのにいまいち悪者のイメージがわかないのだが…。まあそんなことはどうでもいいか。
 さて、べんべこ太郎の墓は、現在でも天童市山口の妙見神社境内に建っている。説明などは立っていないのだが、「べんべこ太郎の墓」とでっかく書かれてあるので、一発発見。墓はどうも不自然な方向を向いて建っている。そっぽを向いているのである。集落の方向を向いて、村人を守っているとでもいうのだろうか。


べんべこ太郎の墓。

妙見神社。

★関連伝説地★
★アクセス★

●猿神退治
大山犬祭り(鶴岡市)
犬の宮(高畠町)


天童市山口下山口。


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