やあみんな!

 妖怪入門「読む」のコーナーは、妖怪のとうじょうする古典作品を、むかしのままの言葉で読んでみて、その妖怪のもつもともとのフンイキを感じてみようというコーナーだよ。

 第1回は、日本の物語の中でもいちばん古い『古事記(こじき)』の中から、「黄泉(よみ)の国」の場面だよ。

 にげるイザナキに、それをおうヨモツシコメ。なかなかスリルのある場面だゾ。さてさて・・・。

(現代語訳のぶぶんは、カーソルをドラッグして反転させると読みやすくなるよ)

 
     

 

 
 

 まだ日本が無かった天地はじまりのとき、高天原(たかまのはら)伊邪那岐命(イザナキノミコト)伊邪那美命(イザナミノミコト)のふうふの神が生まれた。
 2人は力を合わせて日本列島やさまざまな神を産んだが、最後に火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)という火の神さまを産んだので、イザナミはやけどをして死んでしまった。

 夫のイザナキは妻に会いたくて、死者が行くという黄泉(よみ)の国へ向ったが、妻イザナミは「わたしはもう黄泉の食べ物を食べてしまったので帰れないかもしれないのですが、わざわざ来てくれたのだから、黄泉の国の神とそうだんしてみます。ただし、その間にはぜったいに私の姿を見てはいけませんよ」と言って、御殿の中へ入っていった・・・。

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かく白(まを)しつその殿の内に還(かえ)り入りし間、
イザナミはそう言って御殿の中に入っていったが、
いと久しくして待ちかねたまひき。
時間がとても長くて、イザナキは待ちかねてしまった。
かれ、左の御(み)みづらに剌せるゆつつま櫛(くし)の男柱(をばしら)一箇(ひとつ)取りかきて、
そこで左の髪にさしていた神聖な爪櫛(つまくし)の太い歯を1本ぬいて、
一つ火燭(とも)して入り見ます時、
これに火をともして御殿の中に入って見ると、
うじたかれころろきて、
イザナミの体にはウジ虫がたかっていて、ゴロゴロと音をたてていて、
(かしら)には天雷(おほいかづち)居り、胸には火雷(ほのいかづち)居り、
頭には天雷がいて、
胸には火雷がいて、
腹には黒雷(くろいかづち)居り、陰(ほと)には析雷(さくいかづち)居り、
腹には黒雷がいて、またの下には析雷がいて、
左の手には若雷(わかいかづち)居り、右の手には土雷(つちいかづち)居り、
左手には若雷がいて、右手には土雷がいて、
左の足には鳴雷(なるいかづち)居り、右の足には伏雷(ふすいかづち)居り、
左足には鳴雷がいて、右足には伏雷がいて、
(あわ)せて八(やくさ)の雷神(いかづちがみ)成り居りき。
あわせて8人の雷神が生まれ出ていた。
 

 
 
 さてここで、イザナキが火をともしてイザナミのすがたをのぞいていることから、ヨミの国がまっくらな世界であるということがわかるね。
 そして、死んでヨミの国へ行ったイザナミのおそろしいすがたにちゅうもくしよう。体中にウジがわいてゴロゴロ音を立て、8人の雷神があちこちに生まれ出ている。なかなか想像しずらいすがただが、とにかく、この世のものとは思えないものであることはまちがいない。ゾゾッ。

 
 
 
ここに伊邪那岐命(いざなきのみこと)見畏(みかしこ)みて逃げ還ります時、
イザナキがそれを見ておそろしくなってにげ帰るとき、
その妹(いも)伊邪那美命(いざなみのみこと)
その妻のイザナミは、
「吾(あ)に辱(はぢ)見せつ」と言ひて、即ちよもつしこめを遣して追はしめき。
「私にはじをかかせたな」と言って、すぐにヨモツシコメをよびよせてイザナキをおいかけさせた。
ここに伊邪那岐命、黒御縵(くろみかづら)を取りて投げ棄(す)つる、すなはち蒲子(えびかづらのみ)生りき。
そこでイザナキはかみの毛につけていたかづらをとってなげすてると、 たちまちに山ぶどうの実がなった。
こをひりひ食(は)む間に逃げ行く。
これをヨモツシコメがひろって食べている間にイザナキはにげた。
なほ追ひしかば、またその右の御みづらに剌せるゆつつま櫛(くし)を引きかきて投げ棄つる、すなはち笋(たかむな)生りき。
さらにおいかけてきたので、イザナキは右の髪につけていた爪櫛をなげすてると、たちまちタケノコがはえてきた。
こを抜き食む間に逃げ行きき。
これをヨモツシコメがぬいて食べている間にイザナキはにげた。
 
 
 
 いよいよ、妖怪の歴史の中でももっとも古いもののひとつ、「ヨモツシコメ」の登場である。ヨモツシコメはイザナミの命令でイザナキをおいかけるが、イザナキが生んだ山ぶどうやタケノコを食べている間ににげられるというちょっとマヌケなところもある。
 ふしぎな力を使いながら魔物からにげるという話はその後も「オニババ」の話などにうけつがれ、現代の妖怪「口さけ女」も、にげる時にべっこうあめをなげると良いというのはこのパターンだね。なるほど、人間の考えることは1000年以上も前からたいして変わらない、ということかもしれない。

 
 
 


また後(のち)にはその八(やくさ)の雷神に、千五百(ちいほ)の黄泉軍(よもついくさ)を副(そ)へて追はしめき。
そのあと、イザナミは8人の雷神に、1500の黄泉の国の軍隊をつけておいかけさせた。
ここに佩かせる十拳剣(とつかのつるぎ)を抜きて、後手(しりへで)にふきつつ逃げ来ます。
イザナキは身につけた十拳剣をぬいて、うしろ手にふりまわしながらにげた。
なほ追ひて、黄泉比良坂(よもつひらさか)の坂本に到り し時、
さらにおいかけてきて、ヨモツヒラサカのもとにやって来たとき、
その坂本なる桃子(もものみ)三箇(みつ)を取りて待ち撃ちしかば、悉(ことごと)に逃げ返りき。
その坂の下に生えていた桃の実を3つとってなげつけると、軍隊はみなことごとくにげ去った。
ここに伊邪那岐命、その桃子に告(の)りたまはく、
ここでイザナキが言ったことには、
「汝(なれ)、吾を助けしが如く、葦原中国(あしはらのなかつくに)にあらゆるうつしき青人草(あをひとくさ)の、苦しき瀬(せ)に落ちて患(うれ)へ悩(なや)む時に助くべし」と告りたまひて、
おまえは、私を助けたように、アシハラノナカツクニ(地上のこと)に生きているあらゆる人間たちが、苦しいときやなやんでいる時に助けなさい」 と言って、
名を賜(たま)ひて意富加牟豆美命(オホカムヅミノミコト)と号(い)ひき。
名をさずけてオホカムヅミノミコトとした。

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・・・その後、最後にイザナミがおいかけてきたので、イザナキは巨大な千引石(ちびきいし)を坂においた。

 イザナミはわかれの言葉として、「わたしはあなたの国の人々を、1日に1000人ころしましょう」と言った。するとイザナキは、「それでは私は1日に1500人が生まれるようにしよう」と言ったのだという。

 
 


 ヨミの軍勢、ヨモツイクサをたいじした桃には、昔からふしぎな力があると信じられてきた。これは中国から伝わったことである。鬼をたいじする桃太郎の昔話というのも、桃が邪気をはらうというところから生まれたらしいゾ。
 そして最後にはどうして人間が毎日生まれたり死んだりするのか、そのはじまりが語られている。なるほど、人間が生まれるのはイザナキのおかげで、死ぬのはイザナミの呪いのせいなんだね〜。
 

 
 

     
 

 どうだった?日本の妖怪のれきしの中でもいちばん古いモノのひとつ、ヨモツシコメ。

 そこに現代の妖怪口さけ女につながるヒントがかくされているなんて、オドロキだよね。

 みんなも、妖怪の出てくる古典をみつけたら教えてね。このコーナーでしょうかいするよ。

(本文は講談社学術文庫『古事記(上)』によりました。)

 
     

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