しゅのばん(朱の盤)


 
 

 福島県会津若松市にあらわれた妖怪。

 その大きくてまっかな顔で、とおりがかりの人をとつぜんおどろかせる。

 しかも、ただおどろかせるだけだと思ったら大まちがい。この妖怪を見ると、おもいびょうきになってしまうのだ。


澪漂二重作


翡翠作


翡翠作

 
 

◆ものがたり◆

 むかしむかしのお話です。

 会津の町に、あるウワサがながれていました。それは、「諏訪神社(すわじんじゃ)の近くで、「しゅのばん」というそれはそれはおそろしい妖怪があらわれる」というないようでした。

 ある日、1人のげんたろうというわかいさむらいが、ようじがあってこのじんじゃのそばをとおることになりました。
 げんたろうは、ウワサのことをしっていたので、じんじゃのそばをとおるのがイヤでイヤでしかたありません。
「できることなら、じんじゃのそばはとおりたくないなぁ」
そうひとりごとを言いながら、げんたろうは歩いていました。

★ ★ ★

 いよいよじんじゃが見えてきました。げんたろうは、こわさのあまりブルッとふるえました。

 そんなとき、げんたろうがふと後をふりかえると、1人のさむらいが歩いてきました。よく見ると、年も同じくらいです。げんたろうは、それを見てホッとしました。
「ああよかった。2人ならばこわくはない。あのさむらいといっしょに行くことにしよう。」

「やあ、こんにちは。」げんたろうが言いました。

「どうも、こんにちは。」むこうのさむらいがこたえました。

「キミもこっちへ行くのかい。どうだい、いっしょに行かないかい?」
「おお、たびはみちづれか。いいねぇ。行こう行こう。」

 2人はいっしょに行くことになり、げんたろうはゆうきが出てきました。そして、げんたろうは、この近くに出るという、おそろしい妖怪の話をすることにしました。

「キミは知っているかい?この諏訪神社(すわじんじゃ)の近くには、しゅのばんという、それはそれはおそろしい妖怪が出るんだそうだよ。」

 ところが、げんたろうが話しかけても、あいてのさむらいはそっぽをむいたまま、へんじをしません。しばらくして、ようやくしゃべりだしました。

「へぇ・・・そうなんだ・・・、ところで、そのしゅのばんという妖怪は、どんな顔をしているんだい?もしかして、こんな顔かい?」

 そう言うと、あいてのさむらいがとつぜんふりむきました。

 その顔を見て、げんたろうはおどろきました。なんと、そのさむらいの顔はまっかで、目は大きくギラギラしていて、口は耳もとまでさけてするどいキバが何本もはえていたのです!

「ギャー!!で、でたー!!!」

 げんたろうは、あまりにおどろいて、そのままきぜつしてしまいました。

★ ★ ★

 ・・・どれくらい時間がたったのでしょう。げんたろうは、ふと目をさましました。
 あたりをみまわすと、そこはさっきのじんじゃのそばです。妖怪にへんしんしたさむらいは、どこかへいなくなっていました。

「ああ・・・それにしてもおどろいたなぁ・・・。とにかく、なんだかのどがかわいた。」
 
げんたろうは立ち上がり、ふたたび歩きだしました。

 げんたろうはすぐに、ちゃみせ(※1)を見つけました。さっそく中へ入ると、店の女の子がでてきました。

「いらっしゃいませ〜。何にしますか?」

「水だ。水をくれ。のどがかわいてしかたがないんだ。」

「水ですね?わかりました。」

 女の子は水おけから水をくみはじめました。げんたろうは、さっきおこったできごとを、話そうと思いました。

「いや〜、それにしてもびっくりしたよ。ぼくはね、さっきウワサのしゅのばんに会ったんだ。それはそれはおそろしい顔をしていて、きぜつしてしまったんだよ。」

 女の子は、うしろをむいたまま話をきいていました。

「へぇ・・・それはおきのどくに。たいへんな目にあいましたねぇ。・・・ところで、そのしゅのばんというのは、こんな顔じゃありませんでした?」

 そう言うと、女の子がふりかえりました。

 その顔を見て、げんたろうはまたおどろきました。なんと、その女の子の顔も、さっきのバケモノと同じ顔だったのです!!

「ギ、ギャー!!また出たー!!!」

 げんたろうは、またきぜつしてしまいました。

★ ★ ★

 そのあと、目がさめたげんたろうはやっとのことで家に帰ってきましたが、おもいびょうきになってしまい、何年もくるしんだということです。

 

(※1)ちゃみせ・・・お茶やだんごを売っている店。

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